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名作発見

洋画★シネフィル・イマジカでは、ひとつひとつの映画への想いをたいせつにしています。 「たとえば、こんな名作。」ここでは、わたしたちスタッフから、コラムでご紹介していきます。


(c)2000 Universal City Studios, Inc. and Palisade Investors, LLC. All Rights Reserved.
 
「エリン・ブロコビッチ」
 
(2000/スティーヴン・ソダーバーグ監督/アメリカ)

 

 
 

見終わってこれだけ気持ちよく、元気になれる映画は、そうたくさんあるものではないでしょう。これは希有な作品です。
同時に、いかにもアメリカ的な映画でもあります。なにしろ、名もなくお金もないひとりのシングル・マザーが、西部の小さな町で600人以上の原告団を組織して資産280億ドルの大企業を訴え、調停に持ちこみ、アメリカ史上、調停で支払われた最高額と言われる3億3300万ドル(約350億円)の和解金を勝ち取るという、それこそハリウッド映画に出てくるような実話を、実際に、本物のハリウッド映画にしてしまったという事の顛末が、アメリカ的と言わずになんと言ったらいいでしょう。
ジュリア・ロバーツ演じるエリン・ブロンコビッチは実在の人物。元ミス・ウィチタ。どうでもいいような男たちと2度結婚し、2度とも離婚。8歳の男の子、6歳になる女の子、そして生後8か月の女の赤ん坊を抱え、学歴なく職もない、預金残高16ドルのシングル・マザーでした。そんな彼女が、泣きっ面に蜂とはまさにこのことで、赤信号で停車していたところを高級車に思い切り追突され、運転していた彼女はむち打ち症になり、思いもかけず訴訟に敗れて和解金を取る事に失敗し、借金はますますふくれる。困り果てた彼女は、裁判で弁護を務めた、ベテラン俳優アルバート・フィニー演じるエド・マスリー弁護士(これも実在の人物)の事務所に押しかけ、強引に自分を就職させる。ここから彼女の運命が今までとはまったく違った方向に転がり始めます。
整理を命じられた書類をめくっているうち、田舎町の不動産売買の書類に病院による診断記録が混じっていることを発見した彼女は、現地調査の結果、水質汚染の事態に気づき、背後に大企業の汚染隠しがあるという事実を突きとめて、というぐあいにストーリーは発展していくのですが、セクシーなファッションでキメたジュリア・ロバーツの、いやエリン・ブロンコビッチの大活躍は、洋画★シネフィル・イマジカのスクリーンでたっぷりとお楽しみいただくとして。
この作品の発端は、ある女性映画プロデューサーがカイロプラクティックスの診療台に横たわっている時に聞いた、ある患者の、にわかには信じられない人生についてのうわさ話だったといいます。1996年に、噂の当人エリン・ブロンコビッチに会った女性プロデューサーは、これは素晴らしい映画になること、そしてエリンを演じるのはジュリア・ロバーツしかいないことを直感しました。その女性プロデューサーこそ、この作品で製作総指揮のひとりを務めたカーラ・サントス・シャンバーグでした。彼女がさっそく、夫であり、1992年に設立された「ハリウッドで最も冒険的な制作会社」と言われるジャージー・フィルムズの共同経営者であるマイケル・シャンバーグにこの企画を提示したところから、実話ではなく、映画作品としての「エリン・ブロンコビッチ」の物語は始まりました。
本作の製作者となるこのマイケル・シャンバーグは、1970年代前半に『ゲリラ・テレビジョン』という著書を発表して話題を呼んだ人物です。彼は大資本によるネットワーク・テレビを批判し、否定し、開発されたばかりのソニー製ENG(ビデオカメラ、ビデオレコーダー、音声録音のための機器がコンパクトなセットになったシステム。現在のVTR取材用機器の元祖)を駆使し、「フィルムからビデオへ」というスローガンのもと、軽いフットワークを生かした草の根的な取材で社会の真実に迫ろうという、一種の運動体を組織しました。筆者がオルタナティブ(今までのあり方ではない、もうひとつ別の)という英語の形容詞に初めて接したのは上記の『ゲリラ・テレビジョン』の中ででした。ベトナム戦争末期のアメリカで、社会の様々な場所で異議申し立ての動きが巻き起こっていた時代に、映像のジャンルで最もラディカルな動きを示したのが彼らでした。
かつての時代、そんな運動の中心人物だったマイケル・シャンバーグが、このとき、ハリウッドの一画にしっかりと地歩を固めていたわけです。彼らジャージー・フィルムズが製作した最初の映画はダニー・デビート監督・主演、ジャック・ニコルソン共演の『ホッファ』(92)。その後、アカデミー賞7部門にノミネートされて脚本賞を受賞し、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いたクエンティン・タランティーノ監督『パルプ・フィクション』(94)をはじめ、(本作を撮った)スティーブン・ソダーバーグ監督『アウト・オブ・サイト』(98)、ミロシュ・フォアマン監督、ジム・キャリー主演の『マン・オン・ザ・ムーン』(99)など、ひと癖もふた癖もある作品を次々に送りだしました。本作では主演のジュリア・ロバーツが、見事に主演女優賞としてオスカーを手にしています。
名もなく、満足な教育も受けていないひとりのシングル・マザーが社会の大きな不正を発見してそれを許せず、あまり頼りにならない、でも熱い情熱だけは持って任務に当たる弁護士(アルバート・フィニーがいい味を出しています)とコンビを組んで、アメリカ資本主義を支える一大企業を相手に真正面から戦いを挑む姿を、どこかユーモラスなニュアンスも感じさせながら描く本作の製作の中枢部に、マイケル・シャンバーグのような人物がいたことも頭の隅に置いてくだされば、作品の味わいも深まるはずです。冒頭で、この作品がいかにもアメリカ的だと書いたのも、そういう意味がありました。

洋画★シネフィル・イマジカ 編成プロデューサー 市川陽

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