名作発見

洋画★シネフィル・イマジカでは、ひとつひとつの映画への想いをたいせつにしています。 「たとえば、こんな名作。」ここでは、わたしたちスタッフから、コラムでご紹介していきます。

「スティング」

(1973/アメリカ/監督:ジョージ・ロイ・ヒル)
放送日時: 1月4日21:00 1月10日14:00 1月16日12:00
      1月16日24:50 1月29日8:15 1月29日21:00


(c) 1973 Universal Pictures. All Rights Reserved.

 

公開からすでに35年の月日が過ぎているにもかかわらず、いつ見ても、たとえ結末を知っていて見ても、これほど痛快な映画はめったにないでしょう。

時は1936年の大不況まっただなか、舞台はシカゴ。減らず口が達者なチンピラ詐欺師ジョニー・フッカー(ロバート・レッドフォード)が、FBIに追われて隠遁していた伝説的詐欺師ヘンリー・ゴンドーフ(ポール・ニューマン)の力を借りて大イカサマ劇を繰り広げ、大物ギャング、ドイル・ロネガン(ロバート・ショウ)の組織に殺された師匠の仇を討つ物語。主演のふたりと監督のジョージ・ロイ・ヒルのトリオは69年、アメリカン・ニュー・シネマの傑作『明日に向かって撃て』を大ヒットさせました。彼らが4年ぶりに組んで作ったのが本作で、作品賞、監督賞をはじめ、アカデミー賞を総なめにしました。

見どころはふんだんで、とてもここには書ききれませんが、まずはニューマン=レッドフォードの息のあったコンビの魅力。P・ニューマンはこの時の実年齢が48歳。まさに役者として脂の乗りきった頃。世を拗ねた情けない姿から、タキシードを寸分の隙もなく着こなすギャンブル場の支配人まで、余裕綽々の演技は見事という他ありません。

対してチンピラ詐欺師役のR・レッドフォード(と言ってもこの時の彼の実年齢は37歳。決して本当に若いわけではないのです)の身のこなしの軽いこと軽いこと。筆者は今回数十年ぶりに見直してみて、この作品が、R・レッドフォードがこんなに若く、こんなに飛んだり跳ねたり走り回る映画だったかと驚きました。

しかしこのふたりの演技を見ながら改めて思うのは、(当たり前のことですが)洋服というものは西洋人のためにあるのだなあという事実です。P・ニューマンの正装姿。R・レッドフォードのド派手なピン・ストライプのスーツに粋なカスケット帽。ご両人ともビシリと決まっています。さらに突っ込んで言うなら、映画中盤でR・レッドフォードがタキシードを着るのですが、これがP・ニューマンに比べるとどことなく板に付かない。まだ彼が(もちろん彼の扮するジョニー・フッカーという役が)、本当はそのような格好をする柄ではないということを、その着こなしで表現してしまうという高等な技です。こんな演技・演出は「洋服民族」にしかできないのではないでしょうか。

衣装と言えば美術の一部門ですが、ともかくこの映画の美術の凝りようと言ったらただごとではありません。1930年代シカゴの街並み、室内の造作、街角の店の佇まい、電話ボックスのディテールに至るまで綿密な時代考証によって見事に再現されています。しかも、映画後半の中心舞台となる競馬の賭博場のリアルさには目を瞠りますが、そこがイカサマのために「人工的に」作られた部屋であるという設定である以上、そこには現実のセットに組まれた架空のセットという二重性が生じます。それがここでの場面を、迫真力とユーモアが兼ね備わった、目を離せないものにしているはずです。ともあれ、後ほど述べるラグタイムの音色と共に、空前の1930年代ブームの火付け役となったのがこの作品でした。

ディテールと言えば、ギャングの親玉がシカゴに向かう際に出発する駅構内のシーンがあります。この映画の公開時、今は亡きジャズ評論家の久保田二郎氏がある雑誌に、このシーンに一瞬写るキオスクの棚に並べられたラッキー・ストライクのパッケージが、(『アビエイター』について述べた時に触れた)レイモンド・ローウィのデザインによる白地に赤い丸の入ったお馴染みのパッケージではなく、それ以前の、緑地のパッケージであることにいたく関心したということをエッセイに書いていた記憶があります。こんなトリヴィア心を刺激して止まない魅力が、この映画には溢れているのです。それにしても、この細工に気づいた観客が極東の島国にいて、しかもそれを文章にして発表してくれたと知ったら、担当の小道具さんは大喜びしたことでしょう。

そして「プレイヤーたち」「段取り」「引っ掛け」「作り話」「電信屋」「締め出し」「とどめの一撃」という章分けの冒頭をレトロなイラストで飾り、アイリス・イン、アイリス・アウトという無声映画時代の編集の技法を用いて話を進めるお洒落な構成。さらにマーヴィン・ハムリッシュの編曲による、スコット・ジョプリン作曲のラグタイムの数々が実に効果的に鳴り響きます。ジャズの前身とも言えるラグタイムという音楽を、一般の日本人はこの時、この作品によって知ったのです。

付け加えれば、例えば最初のイカサマの現場となる列車内でのポーカーの場面。この場面が表現しているのは、この時代に、列車が単なる移動手段であるだけでなく、社交の場としての役割も担っていたという事実です。これはある意味で、列車もまたメディアの一種になったということでしょう。そしてメディアといえば、ここで仕掛けられている大イカサマ劇の小道具となる電信やラジオこそ、当時の最先端メディアだったことでしょう。そうです。政治の世界にまで大きな影響力を持っていたニューヨークの大物ギャングをへこませるために、彼らは当時の最先端技術を駆使した(しているように見せかけた)のです。これはなまじっかな詐欺ではなく、資金と人手を大いにつぎ込んだ大イカサマ劇。なぜ詐欺をやるのかと問われたヘンリーが、「楽しみさ」と答える、粋で痛快な、一種の<芸>なのです。芸だからこそ、そのあまりに見事なキマリ方に、時代を問わず大きな拍手と喝采が沸き起こるのです。

その伝説的詐欺師ヘンリー・ゴンドーフを魅力的に演じたポール・ニューマンは2008年の9月に世を去りました。享年83歳。ここに謹んでご冥福を祈ると共に、こんな素敵な映画を残してくれた稀代の名優に、心からの感謝を捧げたいと思います。

洋画★シネフィル・イマジカ 編成プロデューサー 市川陽

バックナンバー

・2008年12月20日「2001年宇宙の旅」
・2008年12月1日「美しき諍い女」
・2008年11月10日「死刑台のエレベーター」
・2008年10月22日「マルホランド・ドライブ」
・2008年10月1日「アビエイター」
・2008年9月14日「第三の男」
・2008年9月1日「クィーン」
・2008年7月19日「太陽」
・2008年6月24日「8 mile」
・2008年5月20日「エリン・ブロコビッチ」
・2008年1月7日「めぐりあう時間たち」
・2007年12月6日「地獄の黙示録 特別完全版」
・2007年12月9日「ドクトル・マブゼ」